強制ではなく「さりげなく」消費行動に導く ナッジ理論に基づく導線とは
- ナッジ理論についてわかる
- スラッジについてわかる
- 事例を通してマーケティングにおけるナッジ理論の活用方法がわかる
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ナッジ理論が広い業界で意識されています。これは行動経済学から来ている考え方で、様々なシーンで応用が効くもので、マーケティングシーンでも注目されています。ナッジ理論を上手く活用できれば顧客を自然な消費行動に導けます。本記事ではナッジ理論の概要と活用事例、対義語にあたる「スラッジ」ナッジ理論のマーケティングの導入について紹介します。
ナッジ理論とは何か?概要を紹介
ナッジ理論について概要を紹介します。ナッジとは「そっと肘で軽く小突くように、自発的に行動を促す」という意味になります。
すなわちナッジ理論とは、「相手を強制することなく、最適な行動がとれるように導く方法論」になります。前述のように行動経済学からくる考え方で、行動経済学の権威、リチャード。セイラー氏が唱えた概念になり、近年様々なシーンで注目されています。
ナッジ理論には6つの基本原則があり、それは以下の6つです
N:インセンティブ(iNcentives)
選択をする人、利益を得る人がどの様な動機付けがあるかを分析する
U:マッピングを理解する(Understand mappings)
その選択をすることで、何が起きるかを明確にする
D:デフォルト(Defaults)
多数の人はこだわりがなければ、デフォルト(初期設定)を選択するため、それを最初から提示
G:フィードバックの提供(Give feedback)
選択の結果を伝え、効果を実感させる
E:エラーを予測(Expect error)
ミスを予測し対策する
S:複雑な選択を体系化(Structure complex choices)
選択肢が多い場合、良い選択に導けるよう工夫する
この基本原則をもとに、ナッジ理論は成り立っています。
ナッジ理論が社会で活かされた事例
私たちが社会生活を送るうえで、ナッジ理論が活かされた事例を紹介します。
健康診断やがん検診の受診率向上への取り組み
健康診断やがん検診が大切であることは多くの人が理解をしている事でしょう。しかし「いざ受診を」と考えた時に、そのときは健康だから検診の必要性を感じていないというタイミングであったり、受診にかかる費用や時間、手間がかかることから後回しにしてしまいがちです。さらに、いつどこで受診するか、どんな検査をするかなどを選ぶ必要があると、余計にハードルが高くなってしまいます。
そこで、受診率を向上するために、選択肢を減らすなどの工夫をすることで簡易的に受診できるようになりつつあります。受診のハードルを低くすることで、徐々に受診率が高くなっています。国民の健康管理を促すためにナッジ理論が用いられた事例です。
階段を使いたくなるような仕掛け
駅構内やデパートなどでエスカレーターと階段がある場合、つい楽なエスカレーターを選びがちではないでしょうか。
そこで、階段に「ここまで登ると〇〇カロリー」と表記をしたことにより、階段を選ぶ人が増えたという事例があります。
また、フォルクスワーゲン社は、スウェーデン・ストックホルムのOdenplan駅で、駅の利用者に階段利用を促すためにあるプロジェクトを行いました。
それは、階段をピアノの鍵盤に見立て、各段に踏むたびに音が奏でられる仕掛けを設置するというものです。この結果、通常よりも66%も多くの人が階段を利用するようになったという報告もあります。
どちらを使うかは、その人個人の自由ですが、これは健康促進のために階段を登りたくなるような仕掛けをした「ナッジ理論」のひとつです。
男子トイレの便器
オランダの空港に設置された男子トイレの便器に、ハエの絵を描くという取り組みがありました。それまでは、トイレをきれいに使うようにとお願いをしても、便器からはみ出た小便で床などが汚れる、清掃するための人件費がかさむなど、様々な問題がありました。
ハエの絵を描いてからは、無意識に絵を狙うようになり、床の汚れが減り、清掃費用も大幅に抑えられました。
遅延や滞納防止のリマインダー送付
納税の重要性を認識し、支払能力があるにもかかわらず、税金の滞納が発生するケースが存在します。
英国で行われた研究によると、督促状に「英国では10人中9人が税金を期限内に支払っています。あなたはまだ納税を完了していない極めて少数派の人です」というメッセージを加えたところ、納税率が5.1%増加したという事例があります。
このように、軽く肘で小突くような工夫が成果を挙げている事例が多数あることがわかります。
ナッジ理論のマーケティングへの活用が想定されるシーン
続いてはマーケティングにおいてナッジ理論が持ち入れられる事例をみていきましょう。
ポイントカードの導入
ポイントカードを導入すれば顧客リーピート率の向上が期待できます。具体的には飲食店などが取り入れているスタンプを溜めることでサービスを受けられることが挙げられます。これは基本原則の「インセンティブ」「デフォルト」によるものが大きいです。
人気、おすすめ、限定の提示
商品やサービスを選ぶにあたって、選択肢が多すぎると迷ってしまうことがあります。そこで前述の基本原則「複雑な選択を体系化」することに基づき、人気やおすすめ、限定などを提示することで、その商品・サービスの購入を促すことが期待できます。
メールマガジン
ナッジ理論による「デフォルト」を活用したものです。新規会員登録とメールマガジン配信希望を別で設定します。こうすることでメールマガジンを希望しない登録者が出てきます。新規会員登録者をメールマガジン対象者にすれば、配信対象者を増やしマーケティングの効率向上が見込めます。
以上の様に、マーケディングにおいてもナッジ理論を用いることで、自然と売上に貢献できる事例があります。いずれも取り入れるにあたって難しいものではありません。ナッジ理論の有効性がよくわかる事でしょう。
対義語としての「スラッジ」について紹介
ナッジ理論の対義語として「スラッジ」という言葉が存在します。
スラッジとは、英語で「ヘドロ」や「泥」を意味します。スラッジは「負のナッジ」、ユーザーにとって不利な選択へと誘導したり、煩雑な手続きを要求したりするなど、合理的な行動をさせない仕組みのことを指します。
ちょっとしたきっかけを与えることで選択を誘導するナッジは、「人々の無意識にアクセスし、心の癖を利用する」ということも可能です。
もともとは良い行動を促すために使用されることを想定された「ハック」でしたが、現状はそれだけではありません。企業が消費者の利益ではなく、自社の利益を最優先してナッジを利用するケースもあります。
例えば、補償金を受け取るために膨大な書類の提出や手続きをしなければならず、その煩雑さから利用者が補償金の申請を諦めるようなケースです。
書類のひとつひとつに合理性があれば良いですが、手続きを煩わしくすることで、申請数を少なくしようとする意図があるのなら、それは「スラッジ」といえます。
スラッジを用いることにより、企業は短期的に利益を得ることもありますが、一方で、企業イメージを損なう可能性もあります。
ナッジだけでなくスラッジについても、しっかりおさえておきましょう。
まとめ
ナッジ理論の概要と対義語としてのスラッジ、マーケディングにおけるナッジ理論の活用方法について紹介しました。ナッジ理論を上手く導入すれば、顧客を上手く消費行動の動線に導くことができますので、積極的に活用してみるとよいでしょう。